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今物語のおもしろさ―私の古典文学散歩(4)

 『今物語』は藤原信実が編纂した中世説話集です。1998年に講談社学術文庫で三木紀人氏の全訳注が出版されたため、大変読みやすくなりました。念のためにいいますが『今昔物語集』とは別の作品です。
 編者の信実は13世紀ごろの人で、自ら勅撰集に多数歌を残す歌人であるとともに、三十六歌仙絵を描いた画家でもあったといいます。53の話からなりますが、歌の道に関心を持っていたためか、説話の大半は和歌に関する話です。たいていは「やさしき」(優美な)話であり、歌道の奥深さを物語るものが多いです。中世の貴族の歌に対する関心の高さをうかがい知ることができます。
 第18話はこんな話です。

 あの西行が伏見中納言の屋敷をたずね縁に座っていたところ、訳を知らぬ侍が不審に思ってにらみつける。西行は自作の歌を屋敷内の貴人に伝えようとするが、侍はその趣旨を理解できず、生意気だといって横っ面を張ってしまう。

 高名な歌人の災難ですが、歌の知識がない侍の無粋を責める内容になっています。
 そうかと思えば下卑た尾篭な話もあります。我慢できず放屁してしまった僧の話。それどころではない大失敗をした説教師の話など、哄笑性の高い話もあるのです。
 簡潔で分かりやすい内容なので私が何度も読み返す作品の一つです。