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名前

 村上春樹の新作のモチーフの一つが名前です。人の名前は多くの場合、自分以外によって決められます。たとえ自分で決めた名前でさえも、結局他人にそう呼ばれることを前提に名付けるのですから、他人本意と言えます。

 しかし、私たちは自分の名前に拘ります。自分の名前が不当に扱われていると感じるなど、取り立てて根拠がなくても、他愛ないことでも気にして、悩み、場合によっては死まで考えます。これは名前が本来、他者との関係を持つ際のきっかけであり、象徴でもあると考えるからでしょう。

 逆に言えば、私たちは他人との関係を名前を通して行っていることになります。名前も知らない人との友情という表現はよく聞きますが、その場合の名前とは法律上の人名のことで、それを知らない場合でも友情は成立するということです。その場合は本名に代わる何らかの呼称が用意されているはずです。

 自分の名前でありながら、他人との関係に重要な役割を果たす名前の性格を考えると、三面鏡に無限に映し出された自分の驚いた、多分に情けない顔を思い浮かべるのです。