はてなの毎日

日々の思いを、思うまま

幻影

  実は今住んでいる地域にはずっと昔に生活したことがあるのです。その頃は文字通りの新興住宅地で所々に雑木林が点在していました。恐らく今それが残っているとしたら、ささやかな未開拓の土地に過ぎないのでしょうが、その頃の私には密林のように感じていました。
   いまではその面影はほとんどありません。わずかに残った木々も公園緑地として計画的に整備されており、かつての秘密の場所的な趣きはありません。子どもではなくなった今、そういう緑地にすら近くことはありませんが、なぜかとても寂しく感じるのです。
  そんな今の町が突然変貌する時があります。建物が解体され、次の建物が建つまでの期間に見せる広い空間がそれを誘発することがあるのです。広くなった展望の向こうに幻の風景が浮かび上がります。かつて我が物顔に歩いた原っぱや、ザリガニ釣りをした用水路、時々クワガタがいて心踊らせた雑木林などが、忽然と現出するのです。恐らくそれはたわいない幻影に過ぎません。しかし、それが折れそうな心を救ってくれたことが幾度もあるのです。