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自信を失わせないこと

 慶應義塾大学の外山理沙子氏らの研究「負のピア効果 ―クラスメイトの学力が高くなると生徒の学力は下がるのか?―」を読んで考えたことを書いておきます。この研究は成績の高い集団に入った方が成績は上がるという近年常識化してきている考え方に異論を唱えるものでした。埼玉県の小中学生を調査すると、設定条件下では統計上は成績は上がらず、むしろ下がるという結果が出たというのです。

 統計的な精査は私の能力を超えていますのでとりあえず論に従って考えてみます。ただ、この調査には単なるテストの成績だけではなく、本人の家庭環境や学校の環境、教員の質なども考慮されているようなので、検討の価値は大いにあると感じました。

 我々は子供により良き学習環境を求めるために、試験の難しい学校を受験させます。そして、合格しさえすれば質の高いクラスメイトと切磋琢磨してその能力をさらに伸ばすことができると考えています。しかし、これが統計上はそうも言えないということになります。

 また、習熟度別クラス編成は効果を生まず、むしろ学力低位層の学習意欲を奪うだけであるとの考えも支配的ですが、どうもそうとも言えないかもしれない。できる子どもができない子供に教えることで、総体的に学力が向上するというシナリオはもしかしたら成り立っていないかもしれないというのです。以上が研究の成果です。

 私の経験上、確かに学力低位層の生徒は学習に関して自信が持てず、自己肯定感が低い者が多いということは言えます。今はできないけれど、やればできるようになると考えている生徒は学年が上がるほど減っていきます。学力の高い生徒は逆に自分の学習の在り方に自信をもち、より成績を伸ばす傾向があります。もちろん油断のあまり成績を落とす生徒もいますが、それには家庭や学校生活などの別要因が働いていることが多いと思います。すると、必ずしも学力の高い級友に囲まれていることは学習効果を上げる要因にはならないということになります。

 それでは、習熟度別のクラス編成がよいかといえば、私はそうも言えないと考えています。まずは教員の教え方が習熟度別になっているかどうかの問題があります。そして、結局同じテストで判定するとなれば、学力の向上を実感することは難しく、低位層は固定化する可能性があります。また、上位層でも自分の成績が周囲に対して優位であるという実感が薄れれば、学習意欲に関わる可能性もあることになります。

 以上から考えるのは、きわめて常識的な結論なのですが、教員はどのような環境にあっても生徒に学習意欲を保たせるための方策を打たなくてはならないということになります。周囲より成績が劣っている生徒に対しては、現在の成績がすべてを決するのではなくあくまでも途中経過であり、貴方には可能性があるというメッセージを伝え続けることが大切だということになります。成績上位者にはより高い目標を抱かせることがさらなる飛躍の要因になります。

 昨今の教えあい、学びあいがすべてを解決するという風潮は少なくとも教師の立場からみれば再考すべきであると考えました。そして教員の存在意義と責任の大きさを改めて感じた次第です。