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読書感想文の意義

 夏休みの宿題に読書感想文を課する学校はいまでも多いようです。ただ、この宿題にはいろいろな問題があって、存在意義を疑問視する人も多い。私は出題意図が明確ならば一定の効果があると考えています。私の読み方を紹介することで、この問題に対する一つの回答を試みようと思います。

 この宿題の一番の問題点は、何を目的に出されているのかを生徒も教員も保護者もよく理解していないことではないでしょうか。例年通り、昔からあるからというのが最大の理由になっている気がします。私は読書のきっかけ作りと味読の体験の提供、自己の経験との照合、それを表す文章力の練習などがそれに当たると考えています。

 読書感想文を課すことが読書嫌いを生み出すという議論もあります。しかし、読書習慣がない生徒が多数を占めるというのは、感想文出願以前の現状であり、残念ながら学年が上がるごとにその傾向は増えます。感想文の宿題は年に1回というところがほとんどですから、それが原因とは言えない。むしろこの宿題が無読書の削減に寄与しているという惨状です。

 一つの作品にのめり込むということも難しくなっています。世の中には様々な情報が溢れており、それらは即座に消費されてしまいます。一書を集中して読むことができにくい雰囲気があります。まして、そこに自分の思いを投影することなどできません。

 読書感想文はあくまで感想を述べる文章だと思います。感想は主観的なものです。書き手が考えたこと、感じたことを書くことが求められています。書評とは異なり、場合によっては作品から大いに逸脱するものであっても構わないと思うのです。恋愛小説を読んで政治や社会問題について何かを感じたならそれを語っていいし、その反対でも構わない。私が生徒の作品を読んでもっとも評価するのはこの部分です。というより、感想がオリジナルでなければ意味がありません。これを誤解している人が多いようです。一つの本には一つの理想的な感想がある、つまり正解があるかのように考えてしまっているのです。だから、ネットで感想の用例を探す生徒が出てくる。私は感想文にどうしても順位をつけなくてはならないときは、感想に個性のないものは下位におくことにしています。

 個性的な感想にするためには読んだ書籍の内容をきっかけとして、自己の経験を掘り下げる必要があります。小説の登場人物がたどった言動と自己の経験とを照合し、作中の世界の中でロールプレイをする必要があるのです。

 書き方についても注意がいります。感想を書く目的を忘れてはいけません。小説の場合、あらすじの紹介に大半を費やしてしまいがちです。名作ならばいざ知らず、大抵の本は感想文の読者は読んだことがありません。だから、作品の紹介はある程度は必要です。しかし、詳細なストーリーを再現する必要はないのです。

 作品紹介は全体の二割程度でよいでしょう。あとは自分の考えたことを存分に書けばよい。先ほど述べましたように感想とは主観ですから、思ったことを書けばそれが正解なのです。読書感想文は読書を出発点とした自分の今の生きざまなり、考え方を語るエッセイです。

 ビブリオバトルという書評合戦があります。書評と言いましたが実際の試合をみるとかなり恣意的であり、話し手が作品にどれだけのめりこんでいるかを競うものといってもいい。のめりこみ方が大きなほど、そしてそれを伝える気持ちが大きいほど聴衆を惹きつける何かが生まれます。読書感想文はそういったものでいいのではないかと思います。

 夏休みもほぼ終わり、読書感想文の宿題はぜひ思い切り自分を語ってほしい。来月からそれを読むことを楽しみにしています。