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戦わない戦略

 サッカーのワールドカップ予選で、日本が本戦出場を決めた試合のあと、渋谷の交差点では熱狂的なサポーターによる混乱が予想されていました。海外の都市では興奮に任せて乱闘や略奪が起きるという話がありますので、当局は相当の緊張をもって臨んだはずです。

 ところが群衆に呼びかける警察官の軽妙なアナウンスにより、事態は安全裡に収まったといいます。それは警句の連呼ではなく、群衆の心に訴えかけるユーモアを含んだ放送だったといいます。居合わせた人々からは笑みがもれ、交通整理にも自然と協力的になったようです。彼は「DJポリス」なるニックネームをつけられ、ちょっとした話題の人物になっています。

 今回の警察がとったいわば「戦わない戦略」は、いろいろな意味での示唆を与えてくれます。事態の収束に確固たる警官の隊列は必要ですし、彼らにも護身のための器具の携帯は必要です。しかし、大切なのはそれを使わないことなのです。使わせないためには、対峙するものの心を掴み、敵意を抱かせないようにする努力が必要でしょう。このことは日本の外交そのもののあり方を象徴しています。