はてなの毎日

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宴会という機会

 奈良大学上野誠先生の近著『万葉びとの宴』を読みました。古代の日本文学において宴が何を意味し、そこでどのような歌が作られてきたのかがわかりやすく説かれています。一般の方向けに楽しく書かれた本なのでお勧めです。

 万葉集には数多くの宴席歌があり、その中には当時の宴会の様子が推測できる材料もあります。このテーマは私が学生時代に関心を持っていたことであり、文学の醸成に宴席が大きな働きをする現象から、宴席の前身が祭事であり、文学と神祭との関係を考えようとしたことがあります。結局私は途中で投げ出したのですが。

 万葉集の宴席歌の研究は保存されている歌の排列から当時の席順や、常套的な歌の形式、やりとりの方法、さらに中国文学との比較、ルーツとしての中国少数民族の民俗との比較などさまざまな視点でなされています。数少ない資料の中でなされる研究には当然信憑性の問題は生じますが、逆に言えばそこに謎があり、魅力があるといえます。

 宴会は人工的な非日常空間の時空といえます。その中で文学は表現の可能性を少しずつ広げていったのではないでしょうか。宴会には2次会、3次会がありますが、それぞれの雰囲気の中で作られる作品が表現の多彩さを生み出しているともいえます。

 歌を作らなくなった私達もパーティや祝宴などを膠着した状況のブレークスルーのきっかけにすることがあります。宴席の機能についてもう一度考えてみたくなりました。

 

 

 

万葉びとの宴 (講談社現代新書)

万葉びとの宴 (講談社現代新書)