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中華万

 ネットで中国製万年筆を買ってみました。約800円という破格の値段なのですが、届いてみるとなかなかの品物です。キャップが少々固い感はありますが、その他はとても良く出来ています。最初からコンバーターが入っており、その意味でも格安と言えます。

 国産のインクを入れて書いてみると、とてもインクの流れがよく滑らかに字が書けました。値段以上の性能があります。日常的に使う万年筆としては合格点です。耐久性という点においては今後の様子を見るしかありませんが。

 中国製の万年筆にはいくつかのメーカーがありますが、その多くはかつて欧州ブランドの万年筆の下請けを行っていた職人たちが開業したもののようです。デザインなどがどこかで見たことがあるような感じがするのはそのせいかもしれません。また画数の多い中国語を書くために細字のペン先が多く、毛筆のような筆跡になるようにペン先を工夫したものもあります。その点は日本製にも似ています。

 世界の下請け工場が、独立して自国ブランドを立ち上げ、安い人件費を使ってかつての親会社のあった国の需要に切り込むという、言ってみれば現在の国際経済の典型が、万年筆の世界にも確かにあるのです。最近はアメリカや韓国の企業にさえも脅威と感じられている中国ブランドスマートフォンもまさにその例です。

 中国製万年筆を揶揄して「中華万」という人もいます。一部のマニアにとってはまがいもの扱いをされてもいるようです。ただ、実際に実物を持ってみるとそう侮れるものではありません。むしろ、よく出来ていることに驚きます。つまり、基本的な機能という点において「中華万」は全く劣ったものではありません。

 それでも万年筆好きの私には、この格安万年筆にどうしても普段使い以上価値を今のところは見出すことができません。値段が安すぎるせいでしょうか。それもあるのかもしれませんが、どうも非日常の世界に導いてくれる雰囲気が足りないのです。これは言語で形容しがたい。おそらく思い込みの領域に入っているものだと自覚しています。でも、たしかに何かが違うのです。

 かつて私は元ソニーのバイオのパソコンに万年筆のような価値を持つものになってほしいと書いたことがあります。同じような性能であってもそれを使うと何故か仕事が捗るとか、やる気を出させてくれるという雰囲気を持ったマシンを造ってほしいという意味でした。万年筆で書く字は100円のそれでも何十万円もするものでも読めるといった点においては同じです。書いた文字だけを並べて、筆記用具の価格当てをやってみたら、おそらく値段順に並べることは不可能でしょう。でも、書きたくなる気持ちや、書いていることに対する満足感、陶酔感のようなものには明らかに差がでます。

 私は「中華万」を使いながら、日本の製品が目指すべき一つの方向性を考えてみたのですがいかがでしょうか。