はてなの毎日

日々の思いを、思うまま

水辺の風景

 古典に読み込まれた風景がどのようなものであったのかには大変な関心があります。私がかつて研究していた『万葉集』には多くの地名が読み込まれています。中には現在のどこであるかを比定した場所もあるのですが、果たしてそれが古代とどれだけ共通するものなのかについては全くあてになりません。

 例えばある湖の地名について言えば、それが今日同じ名前を持つものがあったとしても、古代のそれと全く同じ場所にあったものとは言えないのです。河川などは次々に流路を変えるため、現代のような治水の整備された状況とは全く違う様相を表していた可能性が高いのです。

 いま例にあげた湖や河川などの水辺の風景は特に時代による変化が激しい場所といえるでしょう。地形のダイナミックな変化を踏まえて古代の風景を想像しなくてはなりません。

 加えて現代の地表には数多くの帰化植物があり、植生については劇的に変わっている可能性があります。建造物、汚染など人為的な要因も古代の風景の復原を難しくしています。大切なのは学問的な調査と空想力なのではないでしょうか。私は現地に赴き、目を閉じて幻想するという矛盾した行動こそ、古代の風景の復原には必要であろうと考えているのです。