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演劇の手法を

 新しい学力観に沿った教育をどうしたら実現できるかについて試行錯誤しています。私にとって一つのヒントになっているのが演劇の手法です。

 言葉が自己と他者を媒介するものである以上、人間関係を俯瞰的に把握できる能力が求められます。自分とあの人はこういう関係だからこういう表現を使うとよい。しかし、自分とはちがうあの人にとっては別の表現がふさわしい、というふうに人間関係を前提とした言葉の使い方ができることが、求められている能力と言えるでしょう。

 これが書かれたものであるならば、筆者と読者の関係になります。スピーチやプレゼンテーション、あるいは討論などでは話し手と聞き手の関係になるでしょう。それぞれの場面のなかでの人間関係を把握した上での意思疎通が求められます。

 こうした力は日常生活の中で培われるものに相違ありませんが、現代では親しい関係ではない人との対面的コミュニケーションの機会が減っており、インターネットの普及で匿名的な希薄な関わりが増えてきています。こうした環境下では臨機応変に人間関係を察する経験が乏しくなります。決まりきったやりとりに関することは出来ても、想定外の事態だと何も言えなくなってしまう。

 そこで中等教育の場において、この関係性察知能力とでもいうものを培っておく必要を感じるのです。年齢の違う生徒が同じ集団を形成する部活動は、その意味で人間関係を知るいい機会です。さらに、例えば国語の授業の中で積極的にロールプレイングをさせることも擬似的ながらさまざまな人間関係を体験する機会になるのではないでしょうか。

 筆者の意見を読み取る作業の場合、それは自分ではない筆者という他者の立場になることが求められます。自分ではない他者の視点をとる経験は演劇を通して培われるのではないでしょうか。自分ではない誰かになってみるという経験が、人間関係をメタ認知する手段になるかもしれない。

 理想はあってもそれを運用できなければ少なくとも教室では意味がありません。生徒諸君にどうしたら演技をしてもらえるか。いまは脚本家のような気持で授業ノートを作っているのです。