はてなの毎日

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古典の風景

 古典作品の読み方にもいろいろありますが、ゆかりの地を訪ねてみるというのも楽しみ方の一つとしてあげられます。

 古典作品の中に出てくる場所が現在のどこなのかを特定することは意外にも難しいのです。地名が変わってしまうのはもちろん、同じ地名でもそれが示す地域が移ってしまっている例も多いのです。有名なものとしては田子の浦があります。

 もっと考えなくてはならないのが地形そのものが変わってしまっていることです。周期的な温暖化や寒冷化などで海進の程度が変異していることに加えて、河川の流路の変化は想像以上に劇的なものです。

 建造物などの人工物や干拓や埋立がもたらしている景観の変化にも気をつけなくてはなりません。海岸部の地形はいろいろな要因で古典文学の風景が保存されている可能性は低いのです。

 さらにいわゆる自然のあり方も要注意です。いわゆる里山は人間が手を加えることで成り立っています。だから、それぞれの時代の技術的な要素に景観は大きな影響を受けるのです。さらに植生も気をつけなくてはなりません。桜の品種がソメイヨシノになったのは近代であり、古典文学の世界には存在していません。明治以降に様々な交流の中で渡来した帰化植物も非常に多いのです。

 過去の風景を想像することには様々な障害があるのですが、それ故に考える楽しみもあります。万葉歌人が見た風景を幻視する試みは総合的な学問成果で行なうべき、壮大なロマンでもある訳です。