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教科書に載っている古典(5) 阿蘇の史、盗人にあひてのがるること(今昔物語集)

 昔の話だ。阿蘇某という史(4等官)がいた。身なりは小さいが、肝っ玉は恐ろしく座った人であった。

 彼の家は西の京にあったので、公務があって参内し、夜が更けて家に帰るときに、東の中の御門から出て、牛車に乗って東大宮通りを南に進めさせて行くときに、着ていた服を皆脱いで、片端からすべて畳んで車の茣蓙の下にきれいに畳んで、その上に畳を敷いて、この史は冠をつけ、足袋を掃き、あとは裸で車の中で座っていた。

 そして、二条大路を西に進めさせていくと。美福門のあたりを過ぎる時に、盗賊が脇から一斉に出てきた。牛車の轅(ながえ・牛とつなぐ部分)に取り付いて、牛飼いの童をうちすえると、童は牛を捨てて逃げてしまった。車の後ろには家来が2、3人いたが皆逃げてしまった。盗賊は近づいてきて牛車の簾を開けて中を見ると、裸で史が座っていたので、盗賊は「あきれたことだ。」と思って、「どうしたのだ」と問うので、史は「東大宮大路でこのような目にあったのだ。お前さんのお仲間が近寄ってきて、私の装束をみな召し上げられた。」と笏を持って、身分の高い人にものを申し上げるときのようにかしこまって答えたので、盗賊は笑ってそのまま行ってしまった。その後、史は、大声で牛飼いの童を呼ぶと、他のものもみな出てきた。それで家に帰りついたのだ。

 その後、妻にこのことを語ると、妻は「その盗賊にも負けない肝っ玉でいらっしゃる」と言って笑ったということだ。

 本当にとてもたくましい精神である。装束を全部脱いで隠しておいて、このように言う考えようは、まったく常人の思いつかないことだ。

 この史は非常に雄弁で機転の利く人物であったので、このように言ったのだと語り伝えているのだとか。