はてなの毎日

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草稿という遺産

 谷崎潤一郎が戦中に自らの小説の草稿や創作メモにあたるものを写真にとって保存していたことが明らかになりました。谷崎が戦中戦後をどのように生きたのについては興味がありますが、今回の発見で小説家が作品を生み出すまでの試行錯誤のあとが明らかになるのではないかと期待されているようです。

 小説家の書く作品には完成前の習作や、中間的な形態を残すものなどが残っていることが多く、それが作品制作の過程を示します。それというのもかつての小説家は手書きでなんども加筆訂正を行い、書き直しながら作品を書いていったからでしょう。近年の作家の中にはコンピュータで文章作成をする人も多くいます。彼らの作品の中途の形態はなかなか保存されることがないため、かつての作家ほど思考の跡をたどるのは難しいのかもしれません。

 先日、遠藤周作の「侍」が完成するまでの草稿を見る機会がありましたが、まさに細かいところまでこだわった作家の魂が感じられ感激しました。手書きで作品を書くことは実は大変骨が折れることなのですが、その苦労をしたからこそ書けた作品もあるのではないでしょうか。効率化より思考の深まりを目指すならば、手書きという作業をするほうがいいのかもしれないと思っています。